ナカシマユウコさん(小学校教諭・2児の母)
愛知県で小学校教諭として働くナカシマユウコさん。子どもたち主体のお誕生日会を毎月開催するなど、子どもたちの「やりたい」にじっくり向きあってきました。また担任として保護者にも寄り添い、長年にわたり親子の関係を見つめてきました。
そんなナカシマさんは、現在2児の母として地域のさまざまな人と関わりあいながら子育てをしています。教員として、親として。それぞれの立場から親子に関わってきたナカシマさんに、子育てについて思うことやチーム育児のヒントなどを伺いました。
チャレンジすることの素晴らしさを子どもたちに伝えたい
インタビューの冒頭、ナカシマさんがある一枚の書類を見せてくれました。
「教員採用試験のときの願書です。いまだに取ってあるんですけど、このあいだ見返したら、学生のころからずっと変わっていないところがあって」
そこには「子どもたちに伝えたい私の感動体験」と題して、学生時代のあるエピソードが記されていました。大学3年生のころ、ナカシマさんは環境NGOのボランティアとしてフィリピンへ行く機会を得ます。外国籍の子どもへの日本語指導に関心を抱き、外国にルーツを持つ子どもたちとの関わりをスタートさせたいと思っていた矢先のことでした。
現地に到着し、子どもたちとマングローブ苗を植える活動に参加したナカシマさん。最初は苗の植え方も現地の言葉もわからず、子どもたちの輪の中にうまく入れずにいたそうです。しかし思い切って簡単な英語で質問してみると、子どもたちはとびきりの笑顔で苗の植え方を教えてくれたそう。この経験から、迷いながらもチャレンジすることのすばらしさを知り、子どもたちにも伝えたいと願うようになりました。
「この願書を書いたときは、まだ実習くらいでしか子どもたちと関わったことがありませんでした。でもそんな大学生の私が書いた想いは、今でも変わっていないんです」
その後、ナカシマさんは晴れて小学校教諭になりました。担任としてさまざまな学年を受け持ち、いよいよ学年主任に昇進したナカシマさんは、あるチャレンジをはじめます。そのチャレンジとは、子どもたち主体のお誕生日会を毎月開くこと。子どもたち自身で内容を企画し、準備から運営まですべて子どもたちだけで担うイベントです。
「私は過去に、妊娠について悩んでいた時期がありました。その経験から、子どもたちには『生まれてきただけですばらしいんだよ』とよく話していたんです。そこで子どもたちの誕生日を毎月みんなでお祝いできたらと思うようになりました」
いざ準備がはじまると、クラスのなかにはさまざまな人間模様が広がるそうです。
「まず、女子と男子のすれ違いがはじまるんですね。男子が約束した時間に来ないとか、変なクイズしか作ってこないとか(笑)。そうして女子がぷんぷんしているのが世の常なんですけど。でも私からなにか指示を出すことはありません。そうこうしているうちに子どもたちだけの力で解決できたりして、誕生日の子に思いきり楽しんでもらおう! とやる気になる。そんな姿もかわいいんですよね」
お誕生日会でプレゼントするのは、出し物だけではないそうです。
「お誕生日の子の素敵なところや頑張っているところを、クラス全員がそれぞれ小さい付箋に書き、色紙に貼ってプレゼントします。書く方も受け取る方も、毎月どこかとても嬉しそうなのが印象的です。クラス全員からメッセージを受け取ることで、このクラスで自分はこんなふうに活躍できているんだなとか、このクラスにいていいんだな、というふうにそれぞれ思えるようになっていきます。みんなご縁があってこのクラスにいるんですよね。自分の誕生月にとっても楽しい思いをした子が、『今度は他の子にお返ししたい』と頑張ってくれる好循環も生まれていきました。私の誕生日は夏休み中なのですが、約1か月も早くサプライズプレゼントをしてくれた時には涙しました。そうやってクラスの絆が深まっていく体験をし、同僚に学級経営の一つの方法としてお話しできたこともよい機会になりました。私自身、やっぱりチャレンジしてよかったと思います」
このような活動のなかで、子どもたちは協調性や思いやり、リーダーシップなどさまざまな力を育んでいくそうです。さらに、こんな意外な力もついていくとか。
「私のクラスから巣立った子たちは、宴会芸人ではないですけど、結婚式の余興や忘年会の一発芸なども得意になるようですね。もしまた会うことがあれば、そんな話も聞いてみたいですね」
親になってから気づいたこと
教育現場で子どもたちと力いっぱい向きあってきたナカシマさん。2020年に第1子を出産してからは、母という顔も持つようになります。親として自身の子どもと向きあうようになってから、さまざまな気づきがあったそうです。
「教員はお子さんたちを一定の時間お預かりする立場です。しかし親になると、自分の子についての最終的な責任を負う立場になります。その責任の違いはやっぱり大きいと感じました。自分で子育てをしてみて、一番大変なところはやっぱり親御さんたちが担ってこられていたんだなと気づきました」
子育てがはじまったばかりの頃は、なんでも自分でやりたいと思うあまり、無理をしていた面もあったそうです。肩に力が入っていた、と当時の自分を振り返ります。
「なんでも自分でやりたいんだけど、つらいというか。まわりからはもっと肩の力を抜きなよとか、まわりを頼りなよと言われていました。あと共感力が高いほうなので、子どもに泣きわめかれると感情まで持っていかれてしまって。当時はよく子どもと一緒に泣いていましたね」
つらいと思いながらも、最初はなかなか人を頼ることができなかったそうです。
「まわりにも、子どもが3歳で幼稚園に入るまで、外の施設に一切頼らずきょうだいを育て上げているようなママがいました。真面目な方で、なんでも自分ひとりでできてしまうから、子育てに対しても同じイメージを持つのかもしれませんね」
第2子の妊娠をきっかけに「ひとりでは無理」と悟った
そんなナカシマさんにも、第2子の妊娠をきっかけに転機が訪れます。
「当時通っていた産婦人科には託児ルームがあって、本来は健診中に子どもを預けられることになっていたんです。でもコロナの影響でその託児ルームが閉鎖されてしまって。妊娠中、ずっと開かずの間になっていました。上の子を連れて病院に行くこともできないし、かといって保育園にも通っていないし、どうしようと思ったのがはじまりでした」
途方に暮れたナカシマさんが頼った先は、保育園の一時預かりでした。
「最初は、育休中の私が利用してもいいのかなという迷いがありました。でもとくに問題はありませんでしたし、利用してみて良かったことはたくさんあります。たとえば、子育てについての話をたくさんの人に聞いてもらえたこと。コロナ禍での妊娠は不安だらけでしたが、子育て経験者の方々から慰めてもらえたのは精神的な支えになりました。食事やトイレトレーニングの悩みなども、とかく母親中心になりがちですが、一人で何とかしようとしなくていいんだと思えるようになりました。また自分や家族以外に子どものことを知ってくれる人が増えたこともうれしかったです。娘も一時保育に行くたびに体や言葉が発達し、たくさん成長を感じることができました」
それからは、銀行や市役所など、子連れで行きづらい用事ができるたびに一時保育を頼りにしてきたそう。そして2022年、ナカシマさんは無事に第2子を出産します。きょうだい育児がスタートして早々、「ひとりでは無理だと悟った」というナカシマさん。以降、さまざまな人の手を借りながら育児をする道を模索しはじめます。最初に頼ることにしたのは産前産後ヘルパーという存在でした。
「住んでいる街で『産前産後 家事お手伝いサービス』という支援があったので、利用してみることにしました。ホームヘルパーさんが自宅に来てくれて、1時間500円でさまざまな家事を代行してくれるサービスです。私はお風呂やトイレなどの水回りの掃除、あと料理や洗濯などをお願いしていました」
いざ家事を依頼してみると、ヘルパーさんのスキルの高さに驚いたそうです。
「担当してくださったヘルパーさんが本当にフレキシブルな方だったんです。その日にある食材で希望の料理を作ってくださって、掛け布団のカバーなんかもあっという間にかけてくださって。カバーを裏返した状態でひもを全部結んで、最後に一気にかけてしまうんですよ。やっぱりプロはすごいなと驚きました」
ホームヘルパーさんとの出会いによって、子育ての参考になりそうなアドバイスもたくさん得られたそうです。
「ホームヘルパーはあくまで家事支援なので、子どもの世話を代行してもらうことはできません。でも我が家を担当してくださったヘルパーさんはたまたま2児のママさんで。子どもの年齢も近かったので、子育てについていろいろアドバイスをもらいました。これからはじまる2歳差育児のことや、男の子と女の子の違いなど、いろいろ会話をしながら家事を手伝ってもらえたのはよかったです」
地域のさまざまな人の力を借りながら、チーム育児への道のりを歩みはじめたナカシマさん。このように便利な支援やサービスの存在をもっと多くの人に知ってほしいと語ります。
「こういうサービスの存在をそもそも知らない人が多い気がするんです。知っていても、ハードルを感じて利用できない人も一定数いますし。恐らく、多くの人は案内文を読んだ時点で遠慮してしまうんですよね。というのも、よく利用条件に『家事を行うことが困難なときに~』と書かれてあったりするのですが、こう書かれてあるとよほど困っていないかぎり遠慮してしまいますよね。一時保育などもそうですが、理由を申告する欄に『リフレッシュ』という選択肢があるんです。でも子育て中に『リフレッシュ』することに対して罪悪感を覚えるママさんもたくさんいます。こういった表現が利用を遠ざける一因になっているかもしれないと個人的には思います。いずれも正当なサービスだし、負担額も払うわけですから、利用者は堂々と頼っていいと思うんですけどね」
教員として、親として。仕事とプライベートの両面から子育てを見つめてきたナカシマさんいわく、「ママのごきげんが世界を救う」と感じているそうです。
後編では、ナカシマさんがそのような思いに至った背景や、教員と保護者の関係性について思うことなどを伺っていきます。
※個人情報保護の観点から、本文中の事例については一部情報を変更しています。
後編はこちら:
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